「疾風ロンド」コントを見ているかのような作品だった!

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エリートなのに間抜け!?

大量殺人にも成りかねない緊迫した事件を描いた小説の割には、なぜかハラハラ、ドキドキ感に欠ける作品。「疾風ロンド」は、そんな感じがする作品であった。

ただ、面白くないわけではない。そこそこスピード感があって、一気に読んでしまえる引き込み力は持っている。また、登場するエリートたちが、どこか間が抜けているところが絶妙な味を出している。これが、読者の緊迫感を薄めている要因なのかもしれない。いや、そうだろう。前作の「白銀ジャック」とは、ここが大きな相違点となっている。

ではでは、この「疾風ロンド」に登場する間抜けな人物たちを紹介しよう。言っておくが、あくまでも彼らは、脳みそ的にエリートと呼ばれる人物なのである。

 

間抜けな人物.1:犯人の葛原

葛原は医科学研究所の研究員で、独断で生物兵器「K-55」を開発した人物。その生物兵器は、あまりにも危険極まりないものだったので、研究所は彼を解雇することに。

それに腹を立てた葛原は、生物兵器「K-55」を盗み出し、『返して欲しければ3億円を出せ』と、研究所所長の東郷を脅迫したのだ。

間抜けなのは、この後である。なんと、脅迫文を出してすぐに、彼は高速道路で後ろから来たトラックにはねられて死んでしまうのである。この事件の主犯なのに、事件以外の事故で真っ先に死んでしまう。何とも間の抜けた話しである。

 

間抜けな人物.2:研究所所長の東郷と研究所主任の栗林

犯人の葛原が死んでしまったために、所長の東郷は、主任研究員の栗林に、生物兵器「K-55」を探し出すことを命じるわけだが、その時に二人の間で交わされる会話が実にコミカルな感じで、何となく二人(特に、所長の東郷)が間抜けな人物のように思えてしまうのである。

自分では何も動かずに、無理難題の命令を部下に下す東郷と、その命令に従いつつも、心の中では東郷に対して毒を吐き続ける栗林。二人のそんなやり取りが、実にコミカルに描かれている。医科学研究所の所長と主任研究員と言えば、頭脳的にはトップクラスのエリートであることは間違いない。だからこそ、余計にコミカルに感じてしまうのかもしれない。

 

間抜けな人物.3:生物兵器の横取りを企む影の人物

この生物兵器の横取りを企む女が登場する。その人物とは、研究所に派遣社員として働きにきていた折口真奈美である。彼女は、この生物兵器「K-55」を横取りして、他の軍事国家に売ることで大金を得ることを目論んでいたのである。

折口は、学生の頃、テストで常に100点を取れるほどの天才的な頭脳の持ち主でありながら、わざと間違った答えを書く、そんな風変わりな人物だった。周りの人からは愚鈍な人物だと思わせといて、いずれ人を騙して一儲けするチャンスをうかがうという狡猾さを持った女だったのだ。

案の定、折口がそんな野心を持った女性だとは知らない東郷は、栗林が無事に回収した生物兵器「K-55」を、彼女に引き取ってくることを命じる。そして、彼女はまんまと生物兵器「K-55」を手に入れた・・・かに思われたのだが。

彼女は偽のパスポートを使って出国しようとするが、税関で捕らえられてしまう。しかし、彼女がスーツケースに隠し持っていた金属製のケースの中味を見て、税関員たちは困惑する。中味は、冷凍されたフランクフルトだったからだ。パスポートを偽造してまで持ち出そうとしたのが、なぜ冷凍のフランクフルトなのか?税関員たちが困惑するのは当たり前である。

いやいや、一番困惑したのは、当の折口真奈美だろう。生物兵器「K-55」が、単なる冷凍のフランクフルトにすり替えられていたのだから。

彼女は、弟のことをいつも詰めが甘いと蔑んでいたのだったが、詰めが甘かったのは彼女も同じだった。何とも間の抜けた話しである。

>>>小説【疾風ロンド】のあらすじはこちらから

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