「赤い指」で見せた加賀恭一郎の気配りの凄さ

<上記の画像は、TBSサイト「赤い指」特設ページより引用>

加賀恭一郎流の気配りとは

この「赤い指」で、容疑者家族のご近所に刑事が聞き込みに行くという場面がある。

聞き込みに行った刑事は、所轄の加賀刑事と本庁の松宮刑事。二人の刑事は、ある家庭の主婦に、ある容疑者家族についていろいろと尋ねていく。本庁の松宮刑事は、この主婦からこれ以上の情報は聞きだせそうにないと判断して、その家を引き払おうとした。すると突然、加賀刑事が、容疑者家族以外の近所の家庭についてもいろいろとその主婦に尋ねはじめた。

その主婦への聞き込みが終わってから、松宮刑事は「どうして他の家のことも訊いたんだ?大して意味があるように思えなかったんだけど」と加賀刑事に詰め寄ります。この松宮刑事の疑問に対して答えた加賀刑事の言葉を、小説からそのまま書き出すと以下のようになる。

「そのとおりだ。意味はない」加賀はあっさりと答えた。
「えっ、じゃあ、何のために・・・・」
すると加賀は立ち止まり、松宮を見た。
「前原家が事件に関わっているという確証は今のところ何もない。空想に近い推理の上での話だ。もしかしたら俺たちは、何の罪もない人々について聞き込みをしているのかもしれない。そのことを考えれば、彼等が不利益を被らないよう最大限の努力をするのは当然のことじゃないか」
「不利益って?」
「俺たちが聞き込みをしたことで、さっきの主婦の前原家に対する印象は確実に変わった。あの好奇心に満ちた目を見ただろう。聞き込みについて彼女が想像を交えて他人にいいふらさないとは誰にもいいきれない。噂は噂を呼び、前原家を取り囲んでいく。仮に犯人が別にいて、そいつが捕まったとしても、一度広まった噂はなかなか消えないものだ。いくら捜査のためとはいえ、そういう被害者を出してはいけないと俺は考えている」
「それで無関係な家のことも・・・」
「ああいう風に質問したことで、その主婦にとって前原家だけが特別な存在ではなくなったはずだ。自分の家のことも、よそで聞き込みされているのかもしれない、とまで考えるんじゃないか」

加賀刑事は、常日頃から「刑事の仕事は事件を解明することだけではない」と言っているが、その姿勢がよく表れているシーンである。明晰な頭脳で事件の真相を暴いていくだけではないところが、加賀恭一郎の最大の魅力あろう。

昨今のネット社会では、確証がないうちから容疑者を徹底的に叩くかのような風習が根付いてしまったようだが、この加賀恭一郎の姿勢をぜひ見習いたいものである。

>>>小説【赤い指】のあらすじはこちらから

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