「夜明けの街で」不倫は終わったあとが地獄のはじまり

この地獄は知っておいたほうがよい

「不倫なんてする奴はバカだ!」と思っていた男が、派遣社員の女性と偶然ある場所で出会ってしまったことから、自らが侮蔑すべき不倫関係に陥ってしまう。そして、その女性は15年前の殺人事件の容疑者だった。この「夜明けの街で」という小説は、家族と愛人という人間ドラマにミステリーがスパイスとして加わった、そんな小説である。

この「夜明けの街で」で描かれている不倫の結末は、あくまでも一つの結末に過ぎないのだが、『この結末が分かっているのならば、誰も不倫なんてしないであろう』と思えるほど、終わることない地獄の始まりを予感させるような結末であった。

しかし、この小説の主人公・渡部が、派遣社員の仲西秋葉に恋をしてしまった気持ちも分かるし、妻子を捨てて秋葉を選ぶ決断も理解できないわけではない。しかし、それはあくまでも男側の言い分でしかないのかもしれない。妻にしてみたら、やはり、犯罪にも等しい行為なのかもしれない。だから、渡部が苦しい人生を歩まなければならないことも仕方ないのかもしれない。

不倫相手の秋葉は決して悪い女ではない。それでも、最終的に渡部から身を引いた秋葉の行動は、あれで本当に良かったのか?と思ってしまう。
結局、渡部を地獄に突き落としただけの結果を招いてしまうのだから。秋葉としては、渡部と一緒にこの地獄に身を投じる決断をすべきだったのではないかと僕には思えるのである。

これからの渡部の罪悪感と孤独感だけの人生を想像すると、男としては、どうしても同情的になってしまうのである。きっと、世の女性には「自業自得よ!」と言われるでしょうけどね。

『ほとんどの人間は、社会的ではあるけれども道徳的な生き物では決してない』と思っている僕には、どうしてもこの渡部を責める気にはなれないのである。

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