あらすじOutline
宮本拓実の息子・時生は、病室で最後の時を迎えようとしていた。時生は、生まれたときからグレゴリウス症候群という病を持っていた。元々、拓実の妻の麗子がこの病気のキャリアであり、男児を生めば50%の確立で遺伝することが分かっていた。それでも、拓実と麗子は時生を生むことを選択した。そして、50%の確立が悪いほうに現れたのだ。中学校の頃から体の節々が痛み出すという病気の兆候が現れ、高校に入ってからは歩行することも困難になり、そして病院に入院することになった。そして、成人することもなく最後の時を迎えようとしていたのだ。時生は、若くして死ぬことを運命付けられた人生を生きていたのだ。そして、本人も病気で死が近いことを理解していたようだった。
息子が最後を迎えようとする病院で、麗子は拓実に語りかけた。「あたしはあの子に聞いてみたかった。生まれてきてよかったと思ったことがあるかどうか。幸せだったかどうか。あたしたちを恨んでいなかったかどうか。」妻の自分を責めるかのような想いを聞いた拓実は、二十年以上も前に出会ったという少年との想い出を語りはじめた。
若い頃の拓実は、仕事が長続きせず、恋人に金を貸してもらいながら日々を送っていた。そんな体たらくした生活を、拓実は自分の生い立ちのせいにしていた。拓実は、自分は母親に捨てられたと思い込んでいたからだ。そんなある日、拓実の前に突然「トキオ」と名乗る青年が現れたのだ。拓実はトキオのことをまったく知らなかったが、トキオは何故か拓実のことを良く知っていた。トキオは、自分は拓実の親戚にあたる者で、拓実のことは自分の父親から聞いて知っているからだと言った。
拓実の前にトキオが現れてしばらくして、拓実の恋人・千鶴が突然行方不明になる。それは千鶴自身の意思のようであったが、千鶴を探す「イシハラ」や「タカクラ」と名乗る怪しい人物が拓実の前に現れた。千鶴が何かの事件に巻き込まれたのしれないと考えた拓実は、彼らよりも前に千鶴を探し出すことにした。
突然現れた「トキオ」という青年と共に消えた恋人を追ううちに、拓実は自分がまったく知らなかった出生の真実を知ることになる。
当サイトの管理人より
この小説「時生」を読むと、映画の「バック・トゥー・ザ・フューチャー」のパート1を思い出す人も多いだろう。息子が過去のダメダメな父親の元にタイムトラベルして、父親を立ち直らせて、母親との結婚の後押しをするというような内容である。「バック・トゥー・ザ・フューチャー」とは、もちろんいろいろな設定が違うわけだが、最も違うのは、その息子が生まれながらに過酷な宿命を背負っていたことである。過酷な宿命を背負うことを分かりながらも息子を産むことを決意した両親。宿命の結末を迎えようとしている息子に抱く両親の想い。その想いが息子を過去にタイムトラベルさせることになるのである。母親が口にした息子への想いに息子がどう答えたのか?そのことを考えながら読み進めるとかなり泣ける作品だ。管理人は、東野圭吾作品の中でこの「時生」が一番好きな作品かもしれない。