「変身」自分が自分として生きられなくなる恐怖

最後の決断が切なかった。
「死ぬ気でやってみろ!」
人を鼓舞するときによく使われる言葉だが、「死ぬことを考えれば、それ以外のことは何も怖くない。」という想いがあるからこそ、このような言葉が出てくるのだと思う。
つまり、人間にとって最大の恐怖が死ぬことである、ということが前提になっているのである。
しかし、果たして本当にそうだろうか?死ぬことより怖いことはないのだろうか?
この「変身」は、そんな疑問を投げかけるような小説だった。
この小説の主人公・成瀬純一が、事件に巻き込まれて犯人に頭を拳銃で撃たれてしまうことからこの物語が始まります。
そんな彼の命を救ったのが、最先端の医療技術である脳移植であった。もっとも怖いはずの死を免れることができたのだから、本来なら万々歳である。
しかし、死よりも恐ろしい現実が、この成瀬純一を襲うことになる。それは、脳移植をしたドナーの人格に、自分の人格がどんどん奪われていくという恐怖である。
『命を救われることが、必ずしも救いになるとは限らない!』
成瀬純一が下したあまりにも切ない最後の決断を思うと、思わずそのように考えてしまうのである。