【さまよう刃】一番さまよっていたのは誰?

小説「さまよう刃」の内容を簡単に説明すると「娘を殺された父親が、犯人に復讐する物語」である。こう簡略して書くとほとんど伝わらないが、かなりドギツイ物語である。まず、東野圭吾作品にしては、描写がかなりドギツイ。また、小説の終わり方の焦燥感もかなりのものです。

これらの理由からか、世間一般のこの小説に対する評価はそれほど高くないようです。僕の評価としては、間違いなく3本の指に入る小説なのですが…。

2012年に2月に東野圭吾公式ガイドブックで公表された「読者1万人が選んだ人気ランキング」でも12位となっており、評価がそれほど高くありません。アマゾンのレビューを見ても「2度と見たくありません」などと書き込みをしている読者の方もおられます。

なぜ僕の中ではこの「さまよう刃」の評価が高いのか?

僕の小説の読み方として、「この小説は何故このタイトルを付けたのか?そして、伝えたいことは何なのか?」を考えながら読むことをよくするのですが、この小説はそういった意味では僕の思考をすごく刺激するものでした。読後にその答えを自分なりに理解した段階で、その評価はダントツに上昇しました。

この「さまよう刃」が何を指しているのか、人それぞれの解釈は異なってくると思います。

娘の復讐が正しいことなのかを迷う父親・長峰のことを指していると考える人もいるでしょうし、この父親に同情しながらも追い詰めていく若い刑事・織部のことを指していると考える人もいるでしょう。正直、僕も読み進めていくうちにどちらの考えも頭に浮かびました。

しかしながら、僕の結論はこうです。『「さまよう刃」とは、警察そのものを指していた』ということです。

「刃」とは警察という国家権力を表しており、法の番人として犯罪者にその「刃」を向けます。しかし、その「刃」を実際に使っているのは警察に働く個々の人たちであり、それぞれの想いがやはりあるわけです。その人たちの中には、「警察の守ろうとしている正義が本当に目指すべき正義なのか」そのことに疑問を抱きながらも職務を遂行していく人などもいるわけです。

つまり、警察の中でも個々の想いはさまよっていたわけです。それを「さまよう刃」というタイトルで表現したかったのだと思います。

僕は、長峰に犯人の状況を密告した本当の人物を知った時にそのように感じました。

この物語にはいろいろな登場人物が現れ、その人物たちのいろいろな想いを描きながら進んでいきます。

  •  娘・絵摩の復讐を企てる父・長峰重樹
  • 絵摩を殺害し、逃げ回る犯人・菅野快児
  • 快児の母親・菅野路子
  • 快児の仲間だが、絵摩殺害には直接関与していない中井誠
  • 誠の父・中井泰造
  • 長峰の手助けするも、復讐を思いとどまらせたい女性・丹沢和佳子
  • 長峰に同情はするものの、復讐に反対する和佳子の父・木島隆明
  • 長峰の娘と同じ目に遭い、自殺をしてしまった娘の父親・鮎村
  • 長峰に同情する若い刑事・織部
  • 長峰逮捕の指揮をとる捜査一課の班長・久塚(織部の上司)

その立場によって、いろいろな想いがあって然るべきです、というか、個人の抱く想いに歯止めをかけることができません。だから、この小説は、これらの人々の個々の想いなどを問題にしたかったわけではなくて、個々の想いが集まる警察という組織のあり方について描きたかったのではないかと思います。法律そのもののあり方についてもです。

法の番人である警察としては、非情と思えるような行動を取らざるを得ないこともあります。しかし、そこで働く人たちまでもが非情なわけではなく、いろいろな想いを抱きながらも職務を遂行しているのだ、というようなことも描きたかったのではないでしょうか?

>>>小説【さまよう刃】のあらすじはこちらから

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